弦楽器について
バイオリン
バイオリンは、弦楽器のなかでもっとも小さく、もっとも高い音の出る楽
器です。オーケストラでは、おもに主旋律を担当する第1バイオリンと、こ
れにハーモニーをつける第2バイオリンとに分かれています。
ヴィオラはバイオリンよりやや大きく、より低い音域をもちます。
このふたつの楽器は、顎の下に挟み、左手で支えながら指で弦を押さえて
音程を作り、弦の中ほどを弓でこすって演奏します。この弓は、馬の尻尾の
毛を白く脱色したもので作られており、松ヤエをこすりつけてすべりを悪く
します。すべりを悪くすることで、弦と弓とのあいだにほどよい摩擦が働き、
あの切ないほどに美しい音が出るのです。また、弓を使わず、右手の人差し
指で弦をはじく奏法もあり、ピチカートと呼ばれます。
バイオリンが、合唱のソプラノパートに当たる華やかな存在なら、ヴィオ
ラはやや地味なアルトパートに当たります。落ち着いた音色は、もの悲しい
メロディーを担当すると、深い味わいが出ます。
チェロ
チェロはヴィオラの倍ぐらいの大きさがあり、ヴィオラの1オクターブ下
の音程をもちます。箱の部分が大きいので、奏者はエンドピンを出して地面
に置いて、左肩にさおの部分を立てかけるように構えます。バイオリンと同
じような(やや短い)弓で、駒のそばをこすって演奏します。楽器自体が大
きいので、音域が4オクターブと大変広く、音量もあります。
チェロは、バイオリンとともに、“もっともよく歌う楽器”だといわれま
す。この“歌う”という表現は、メロディーに陰影や多彩な情緒をこめて、
あたかも歌手が歌うように演奏できる楽器、という意味です。したがって、
オーケストラでは主旋律を担当したり、音質が似通っていることから、木管
楽器のパートを補助する役割をもちます。
コントラバス
コントラバスは、ダブルベース、あるいは単にベースと呼ばれます。大き
くて大変低い音が出ます。2m近くある楽器なので、演奏者は長い演奏でも
立って弾かなくてはなりません。腰褂ける場合は、足の高い椅子が必要です。バイオリンやチェロと同じく弓を使いますが、そのかたちや持ち方に、ド
イツ式とフランス式の2種類があります。日本ではドイツ式が主流ですが、
最近フランス式が増えつつあるようです。
バイオリンに刻まれた天使の彫刻
古い時代のバイオリンに、天使の彫刻を施したものがあります。単なる装飾といえばそれまでですが、これには音楽を愛でながら、その心地よさに罪を感じる、矛盾した、複雑な思いが込められているようです。古来から、音楽には人を魅惑し、ひいては魂を惑わす呪術的な力があると信じられていました。ことにバイオリンは、まるで人の声のように歌うといわれるほど心の匆采い部分をかき乱す音色です。弾き手力嘔れていればいるほど、楽器にその演奏家の魂が宿り、さらにその楽器を手渡された者にたたるとか、人間業を超えた演奏技術には悪魔が加担しているに違いない、などといった空想が生まれました。装飾の天使は、そんな危うい瞬間から演奏家を救い出し、ふたたび人心地をとり戻させるためのお守りのようなものだったのです。